正しい歩き方は、間違った歩き方?①
当院では毎日の治療以外にも、フェルデンクライスメソッドのグループレッスンを定期的に行っています。毎週木曜日の10時と20時、それと奈良ウェルネス倶楽部でも隔週でレッスンを行っているのですが、ウェルネスクラブで今テーマにしているのが「歩き」です。
正しい歩き方
- 踵からつく
- 親指でしっかりける
- 大股で
- 左右均等に動いて
- 骨盤を左右に振って
- 腕もしっかりと振って
- 肩を後ろに引いて
- 胸を張って
- 頭は紐で上に引っ張られているような感じで
- 目線はまっすぐ
こんな言葉をよく耳にします。こういった事を実践することで「正しい歩き方」になるのでしょうか?そもそも正しい歩き方ってなんなのでしょう?
正しさは目的次第
「10kmぐらいの距離を早く歩きたい」
そんな時の正しい歩き方は競歩のようになるでしょう。競技で立証されています。
「モデルのように颯爽と歩きたい」
そんな時はまさにモデル歩き。頭を左右に振りながら踵を地面に突き刺すように歩きます。
「目の前の相手に負けない強い歩きがしたい」
そんな時はモデルのように歩いていてはあっという間にやられてしまいます。
美的に歩いている場合ではありません。頭と腰を落として前進する必要があります。
このように「正しい歩き方」は画一的なものではなく、目的によって正しさは変化します。もっと言えば人間の動きを語るときに「正しい」という言葉がそもそも適切ではありません。この文脈においての「正しい」は「客観的・画一的な答え」ということですが、そのような正しい答えが客観的にあるという考えがそもそも無理があるでしょう。なぜなら目的に適合した歩きをするにしても、その動きは個々人様々だからです。
動きは人それぞれ
遺伝的特質
人にはそれぞれ生まれながらの遺伝的特質があります。片足が短いかもしれませんし、ある筋肉が伸びにくいかもしれません。一部の内臓が非常に大きく重心のバランスに特徴があるかもしれません。
個人的体験
またそれに加えて生育過程での個人的体験があります。例えば母国語が違えば脳の運動皮質パターンに影響を与え、舌、声帯、口蓋などの発達に違いが出るでしょう。その発達の違いは、成人してから他の言語を習得して母国語以外を離していても、母国語が何であるかが推測できるぐらい機能に影響を与えるでしょう。その他、怪我や様々な生活習慣などによっても構造上の発達に大きな影響があるでしょう。
このように様々違った条件を持った人達に対して、例えば100m走世界一のボルト選手のように大きな側弯症(背骨が左右不均等に横に曲がっている)を持つ人に、上記に記した「正しい歩き方」のようなことを意識させれば、彼の能力が日の目を見ることはなかったでしょう。歪んだ背骨の人には歪んだ背骨に適した動きがあるのです。
そして私たちはそれぞれ1人1人がボルトのように大きな特徴を持っています。あまりそう思わない方もおられるかもしれませんが本当にそうなのです。生まれながらの遺伝的特質に加え、成育歴で身に着いた神経系の運動パターンは一人一人とても個性的です。ですので「正しい」と言われる外にある答えに自分を合わせていくことは、丸の形に三角を押し込むようなことになりかねません。
フェルデンクライスメソッドで歩きをテーマに
今行っているフェルデンクライスメソッドのレッスンでは「歩き」をテーマにしていますが、1つ設定があります。それは「合理的で楽な歩き」というものです。このレッスンでは誰かが設定した「正しい歩き方」に自分を合わせていくのではなく、あなたにとって合理的で楽な歩きを探求することを強力に手助けするでしょう。
歩きについてはまだ続きます→次 正しい歩き方は、間違った歩き方?②